
「――なんで…なんで破ったんだよ!!!!」
放課後の廊下に怒鳴り声か響く
静かに切なく消えてゆく
「や、破ったわけじゃないよ…ただ…」
「破ったわけじゃないって、破れてるだろーが!!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る藤原の目に涙が溢れる
それを見て、余計におどおどする増川にまた怒る
「なんでお前はいつもそうなんだよ!!明日が文化祭なんだぞ!」
「わ、わかってるよ…ごめんって…ほんと・・」
「何がごめんだよ!!謝って済むのかよ!!絵は破れてんだぞ!!!」
「でででも…仕方ないじゃんか…謝ることしか…」
「直せよ!!元に戻せ!!!!一生懸命描いたんだよ!!!」
その時のことを思い出すように藤原は拳を握り締めながら足元を見た
「戻せってば…!!」
怒鳴りつける藤原
「…わざとじゃないもん」
「は?」
「別にわざと破ったんじゃないもん!!少し曲がってたから貼り直そうとしたんだよ!!」
「それでも絵が破れたら元も子もねーだろーが!!」
「うるさいなあ!!わざとじゃないって言ってるだろ!!」
「・・ふ、ざけんなああ!!!」
握りしめてた拳を増川に向って振るう
「ぅ・・わあ!!」
鈍い音が響く
「いっ…やめろよ藤原!!!」
下になって抵抗する増川に手加減なく殴る藤原
「いた…痛いよ…うっ…」
「…っ!」
ハッと気づいた様に藤原は振るおうとした拳を頭の上で止めた
増川は嗚咽を流しながら泣いている
藤原は慌てて増川から降りてその場から遠くの方へ逃げて行った
たたた、と駆けていく足音が静かに消えて行く――…
「は…っはぁっ…」
藤原は帰路を全速力で駆けている
道行く人に泣き顔が見られないように
あの事から逃げるように
砂利道――…
ゴツゴツしている道には大中小の石があちこちにあった
「…は…は…っ…はあ…っ・・・・っうわ!!!」
ズサアァと砂利道にスライディングする藤原
「…いっ…て…」
躓いたところに目をやると大き目の石があった
「…畜生…っ!」
もう一度立ち上がり、家に向かって傷が付いた足で思いっきり駆けて行った
ちゃぷん――…
静かに息をする音と、揺れる水の音がお風呂場に広がる
水面に映る顔は泥だらけで、傷だらけで、涙で濡れていた
「っいてて…」
落ちた涙の雫が、お湯に浸からない様に足を曲げて出していた膝へ落ちた
赤黒くなっている膝には、かさぶたが出来ていた
「………」
今日起きたこと、起こしたことが水面に映る
そして増川が泣いてる所で記憶は止まる
「くっ…!」
バシャッ――と水面の増川を殴る
「っ……」
また静かに自分の顔が映る
ため息ばかりの顔が映る
「明日なのに…」
やり場のない悲しみ――……
ぶつけ様のない怒り――…
認めたくない罪―――…
「…………………」
ちゅぷん――――…
文化祭当日、来客人が来る時間まであと30分
誰もいない、絵がたくさん展示されている教室で作業の音がする
セロハンテープを引く音、切る音、貼る音、ため息の音
他の雑音に紛れて消える
作業を一時停止させ、廊下に目をやる
「藤君…」
藤原の姿はない
普通なら、一緒にいるはずの藤原はいない
もう一度目線を手元へ戻し再び音を鳴らす
―――…たたたったった…
…――ダンッ!!!!
「?!」
突然飛び込んできた音に驚き、音の方へ眼をやった
「は…っ…はっ…」
そこには、髪が黒く長めの男が教室のドアに寄りかかり苦しんでいた
「藤君――…!!」
増川は藤原に駆け寄る
「大丈夫?どうしたの?今来たの?」
「はっ…は…」
「とりあえず座ろう、藤…」
藤原の肩を持とうとした増川の行動は、藤原の言葉で止められた
「ごめん」
「…え?」
「……昨日はごめん…殴ったりして…ごめん」
藤原は下を向きながら言った
「え、…ああ…いや大丈夫だよ」
昨日の事を思い出しながら増川は小さく笑った
増川は藤原の細い肩を持つ
「…僕も、ごめんなさい」
「…」
「わざとじゃないのは本当だけど、破れちゃったのも本当だもんね…ごめんね」
「いいよ、もう済んだことだし…」
藤原は足元を見ながら呟いた
「あ、でも、藤君が戻してほしいって言ったから、今貼り付けてたんだ」
ほら、と作業していた机に指を指す
下を向いていた藤原の目は、指された方に向いた
そこには、昨日破かれた絵がくしゃくしゃながらに形になっていた
「増川…ごめん…ありがとうな」
予想外なことに驚きながらも、今度はちゃんと増川の目を見て言った
「ううん、お互い様」
にっこりと増川は笑った
「もう少しだからさ」
「俺も手伝うよ」
「――うん!」
その教室に二つの音が重なり雑音に混じるこのなく学校に響く
笑い声と――セロハンテープの音――…